凍てついた深淵より

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破産管財人立ち合いのもとで被保険者が順番に解凍されていく。法の厳格化によって安楽死じたいが非人道的行為とみなされたのだが、未来を大金で買った加入者たちは納得しない。 会員の大半は大阪万博の会期中に入眠したらしく、車が空を飛ぶようなレトロフューチャーを本気で信じていたようだ。 夢から醒めた途端に地獄へ叩きつけられた者たちの大半は失意のあまり精神を病み、そのごく一部が暴力的手段に訴えた。 凍った霊廟の問題は柳月台記念病院だけにとどまらず、東海省近畿市の各地に広がっていた。人民解放軍は東海省の各病院に院内憲兵を派遣して不測の事態に備えていたが、暴力行為は増える一方だ。 保険局と人民警察が手際よく現場検証と遺体の処理を進めていく。保安医の雅麗姫は慎重に次の解凍を見守っていた。院内憲兵が突撃歩槍をガラスケースに向けている。 若い女の患者はカーキ色の軍服に囲まれて怯えた様子だ。 「挙起手来!」 雅麗姫はゆっくりと慎重に距離を縮める。女がキョトンとしているので、彼女はもう一度言い直した。「手おとなしい、あげて下さい」 「何なのよ、アンタ? それにお母さんは何処?」 女はパニック状態だ。無理もない。致死性免疫疾患で余命いくばくもない母のために身体を売り、後天性免疫不全症候群を発症した。命を投げうって財を築き、遠い未来に望みをかけた。     
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