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「この島に来るのも、これが最後になるのね」
不意に良子がそう言った。
「ああ」
私も良子も、その後黙りこんだまま、夜の海を見つめた。
暗く、沈んだ、穏やかな海。
何事もなかったかのような、静かな海。
「楽しかったわね」
「うん」
良子は私の手を握り、私の肩に体を預けた。
この暗く、沈んだ静かな海を見るのも、これが最後だ。
「あなたのことだけを、ずっとここで待っていたのに…」
良子の寂しげな、憂いを帯びた声が聞こえた気がしたが、それは静かな波の音に吸い込まれるように消えた。
夜が明けて、窓辺には朝日が仄かに差し込んだ。
しかし、そこにはもう、誰もいない。
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