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「灯くん、ここを開けてください。話があります。」
私が扉の向こう側に居る灯りくんに呼び掛けると、「僕には話しなんて、ありません」と言って、鍵を開けてはくれなかった。
それでも私は、ここで引き下がる分けには行かない。
彼に、誤解を与えたままで居る分けには行かない。
私の気持ちを、彼に伝えよう、いや、伝えたい。今、この時に。
「お願いです。今まで、貴方に対して、随分と意地悪なことをしてきました。申し訳ありませんでした。でも、それは貴方の新鮮な反応が見たかったからなのです。悪気が無かったと言ったら、嘘になります。でも・・・それ以上に、私は貴方のことを・・・お願いです。扉を開けてください。」
私が呼びかけても、返事は無かった。
しばらく待っても、中はしんと静まり返っていた。もしかして、もう寝てしまったのか?
だとすると、もう今すべきことは無い・・・何も出来ないのか、私は・・・
諦めて、扉を後にしようとした瞬間・・・カチッと鍵が開き、扉が開いた。
真っ白な顔を俯けて、パジャマ姿の灯くんが佇んでいた。
華奢な体だ・・・これでは、自分の身を守るなんてこと、できっこ無い。
合気道でも・・・教えた方がいいか・・・
闘う術を、彼には学んで欲しいと私は思った。でないと、彼はまた誰かも分からない相手に好きにされてしまうだろう。
それは、私の望んだことでは無い。彼自身は、あまり気にも留めないことだとしても・・・
私は、佇む彼の傍に寄り、彼を抱き締めた。
ビクッと震える彼の小さな体。ギュッと、しっかりと、両腕の中に入れた。そして、髪の毛をやんわりと撫でた。ヒュッと、息を吸い込む音がする。彼が、ビックリしているんだろう。
「すみませんでした。謝ります。」
「・・・・・なんで・・・・・一ノ瀬さんは、来村先生のことを・・・・・・・・」
「誤解です。申し訳ありません。」
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