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でも、抱かれ慣れた体は、一ノ瀬さんの整った顔と頑丈そうな体躯に、釘付けになった。
こんな綺麗な人が、これから僕の面倒を見てくれるの?
お父さんが居なくなっても?
居なくなるなんて、考えたくも無いけど・・・
奇跡が起きて、お父さんの病気が治ったらいいのに。
「あ、あの、一ノ瀬さん。父は闘病はしないのですか?」
部屋の扉を背中にして立っている一ノ瀬さんに、尋ねた。
「お父様は、出来るだけ長く、貴方の側に居たいと仰って、この家の中で出来る闘病、つまり、抗がん剤の投与、そしてこの家に放射線機器を持ち込んで、放射線治療だけは、やるおつもりです。ただ、その治療の結果、貴方に会えなくなるような状態になるのは嫌だと仰って居ます。だから、出来るだけ、長く貴方と一緒に居るのを念頭に、治療をされていきます。」
「もしかして、奇跡が起こって、治るとか、そういうことは無いんですか?」
「・・・・・奇跡でも起こらない限りは・・・・・」
「でも、それじゃ、奇跡が起こったら、お父さんは助かるってことですよね!」
一ノ瀬さんは、困った顔をして微笑んだ。
「僕、お母さんが誰なのか、どんな人だったのか、親戚も居るのか居ないのか、よく知らないんです。生まれてからずっとここで生きてきて、外に出ることも無かった。お父さんが全てなんです。だから・・・お父さんには・・・生きてて欲しくて・・・」
「お心、お察しします。じゃあ。二人で、お父様の奇跡を信じて、悲しい顔は無しで。お父様を愛して差し上げてください。」
僕はその言葉に、涙が溢れた。
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