僕のこと

14/19
前へ
/176ページ
次へ
でも、抱かれ慣れた体は、一ノ瀬さんの整った顔と頑丈そうな体躯に、釘付けになった。 こんな綺麗な人が、これから僕の面倒を見てくれるの? お父さんが居なくなっても? 居なくなるなんて、考えたくも無いけど・・・ 奇跡が起きて、お父さんの病気が治ったらいいのに。 「あ、あの、一ノ瀬さん。父は闘病はしないのですか?」 部屋の扉を背中にして立っている一ノ瀬さんに、尋ねた。 「お父様は、出来るだけ長く、貴方の側に居たいと仰って、この家の中で出来る闘病、つまり、抗がん剤の投与、そしてこの家に放射線機器を持ち込んで、放射線治療だけは、やるおつもりです。ただ、その治療の結果、貴方に会えなくなるような状態になるのは嫌だと仰って居ます。だから、出来るだけ、長く貴方と一緒に居るのを念頭に、治療をされていきます。」 「もしかして、奇跡が起こって、治るとか、そういうことは無いんですか?」 「・・・・・奇跡でも起こらない限りは・・・・・」 「でも、それじゃ、奇跡が起こったら、お父さんは助かるってことですよね!」 一ノ瀬さんは、困った顔をして微笑んだ。 「僕、お母さんが誰なのか、どんな人だったのか、親戚も居るのか居ないのか、よく知らないんです。生まれてからずっとここで生きてきて、外に出ることも無かった。お父さんが全てなんです。だから・・・お父さんには・・・生きてて欲しくて・・・」 「お心、お察しします。じゃあ。二人で、お父様の奇跡を信じて、悲しい顔は無しで。お父様を愛して差し上げてください。」 僕はその言葉に、涙が溢れた。
/176ページ

最初のコメントを投稿しよう!

287人が本棚に入れています
本棚に追加