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何はともあれ、一先ず上手くいきそうだ。
ザイードは兄とその執事のやり取りを腕を組み、楽しみながら眺めている。
アサドはハーディに答えた。
「医者は……取り合えず産科の専門医を連れていく……驚いてその場で産まれる恐れがあるからな……」
念には念を──…は軍人として当たり前の心構えだ。
「畏まりました。では直ぐに手配致します」
ハーディは病室を後にする。
ザイードはベッドに腰掛けたままハーディを見送ったアサドの背中を見つめていた。
「ザイード……」
アサドは振り返らずに名前を呼ぶ。
ザイードはアサドの近くへ歩み寄った。
「すまないが、俺の方が先に父親になるようだ」
アサドの言葉にザイードは思わず笑っていた。
「めでたいことに先も後もない──…何ならお披露目も一緒にするか……」
笑いながらもそれは本心からの言葉だった。
やはり毎度のことながら先を行ってくれる兄だ──。
だが、悔しさよりも嬉しさの方が際立つ。
アサドはザイードの言葉にふんっと笑った。
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