最後のお悔やみ

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「そうだ。忘れない内に伝えておくね、こちらでの記憶は…向こうに行ったら、全て消滅してしまう。だから向こうでやることは、向こうで改めて考えた方がいい」 「えっ、そうなんですか…?」 「こちらの世は決して知られてはいけない、世の中の均衡が崩壊してしまいかねないからね。善人の中には悪人が潜んでいるし、その悪人を懲らしめる事にもまた善人が必要だ。そうやってバランスの取れた世の中を、非現実的な存在が壊してしまうことはこの世の理としてタブーなんだ」 「…じゃあ…でもそしたら…」  私はどうやってアザミを探せば…、 「ごめんね、これ以上は僕らは力になれない。だけどきっと、君のことは君自身が助けてくれる筈だよ」  千々波さんはまるでヒントだとでも言うように人差し指を立て、私に笑い掛けた。 「記憶なくなるけど、感じたことは覚えている筈さ」 「え、」 「音や匂い。それから景色や気持ち。…小さい頃に感じた記憶は、大人になっても忘れないものでしょう?」  千々波さんは「そういうことだよ」と笑ってその人差し指の先を上げると、私のポケットに仕舞っていた帳簿と筆を浮かし、そのまま自分の手元におさめていた。 「帳簿も君に使ってもらって喜んでいるみたいだ。本当にいい仕事をしたね」 「えっ、あ…ありがとうございます…」 「僕はこれから青天目の後釜を埋めなければならない。また死神職に戻らなきゃいけないから、大忙しさ」 「す、すみません…?」 「謝ることないよ。とても貴重なものを見せてもらったからね、あの徳の量はもう数十年も見ていない」  パンッと手のひらを叩き、足元に大きな陣を描く千々波さんは「それじゃあ、この中に飛び込んで」と至極雑な要求をしてきた。
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