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「えっ、と、飛び込む?」
「うん。この中は、あの現へ繋がる門の空間と繋がっているからね」
「も、門……?」
ああもしかして、初めにアザミに連れて行かれそうになったあの門か。
「えぇ…」と不安になって思わずホズミを見れば、彼はフンっと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「やっとうるさいヤツがいなくなって、清々する」
薄情な男だ。仮にも罰則具で繋がって一緒に過ごした中なのに!
「そんな言い方…!」
「ってのは嘘だよ。春子」
「へ…」
「お前、もう簡単に死にたいなんて思うなよ」
ホズミが、少しだけ悲しげに、けれど優しい眼差しでこちらを見つめる。
この男は、根は良いやつなのだ。だから私は嫌いじゃない。
アザミが、どんなにうざがってもホズミを突き放さなかったのはそういうことなのだ。
もしも彼が生まれ変わり、私もそこにいたのならば、その時はまた違う形で出会いたいと思う。
「……、うん」
小さく頷いた私に、ホズミは「なら、よし」とやっぱり優しげに笑った。
それから、
「あ、トトリ…あの…」
「トトリはあんたなんてどうでもいいけど」
だ、だよね…。
思わず顔を引き攣らせていると、彼女は「でも!」と声を張り上げた。
「あーくん、幸せにしないと承知しないんだから。青天目の約束!絶対守ってよね!」
少ししか関われなかったけれど、彼女もまた、情の厚い人なのだと思う。
だから、こうして、青天目さんやアザミがいなくなって、涙を流しているんだ。
それはきっと、偽りない。
「うん、勿論」
傘でびしっとこちらを指してくるトトリに、私はしっかりと頷いた。
「それじゃあ、お元気で。長生きして下さい」
千々波さんが今一度手を叩いた。
瞬間、陣が轟々と輝き、私は目をぎゅっと閉じて、
光の中に飛び込んだ。
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