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家に帰ってからは、お父さんからも縋り付くように泣かれた。
まるで病院で泣いていた母のようだった。
なんだろう、なんだろう。
「よかった、おかえり春子」
「うん、ただいま。お父さん」
擽ったくなるような、あたたかさを感じていた。
私は私が思っているよりも、しっかり愛されていたのだと思った。
それから数日安静をとって、私は一週間ぶりに学校へ行った。ちょっと緊張した。これといって仲のいい子もいなかったから、更に周りから孤立しているんじゃないかと不安になった。
「雨賀谷さん、大丈夫だったの?倒れたって聞いたけど…」
「え?」
「何度かお家にも行かせて貰ったんだけど…もしかして聞いてなかったかな…?」
「あ、ごめんね…聞くの忘れて…た」
どう反応するのが正解かわからない。
友達という友達がいなかった私にとって、家族以外の他人に心配されるという事が生まれて初めてだったから、頼りなく返してしまう。
ああ、でももっと言い方がある筈だ。
もっと―――、
「あり、がとう……その、嬉しい」
ぎこちなく笑えば、目の前の女子数人が驚いたように目を丸くして、どこか安心したように笑ってくれた。
「あっ、そうだ雨賀谷さん、ノート見る?英語とか結構進んだから、私のでよかったら貸すよ」
「え、本当…?ありがとう…どうしようか丁度悩んでたんだ」
「ねえねえ、よかったら一緒にお昼食べない?ついでにそん時、今度の中間の範囲も教えるね」
「あ…助かる…」
「雨賀谷さん、数学得意だったよね…?時間ある時でいいから教えてくれないかな…?」
「わ、たしでよければ…」
「私さぁ、雨賀谷さんとこうして話してみたかったんだよね、でもいっつも逃げられるから」
「え…」
「だから、嬉しい」
笑い掛けてくれる彼女達に、私は戸惑いながらも素直に「私も」と頷いた。
いつもなら突っぱねかねないのに、なんだかそれでは勿体ないような気がした。
家や、学校や、それから街並み。全てのもの、ひとつひとつが暫く煌めいて見えた。
変わらずそこにあるものが、変わっているように見えるのは、きっと、
きっと―――。
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