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開いた窓から春の風が入り込み、その人の黒髪をさらりと揺らす。
黒い縁のある眼鏡の奥で、私に気付いた目が緩やかに見開いた。
薄茶色の、綺麗な目をしていると思った。
ふわり、と窓の近くでカーテンが風に靡く。
そのほんの数秒の出来事が、永遠を語れるほど長く感じられた。
互いに出方を迷っているのか。
それとも、形容しがたい気持ちを言葉にすることが出来ないのか。
なんだ、なんだろう。
とても違和感がある、もやもやと。
それでも、酷く懐かしい気もするのだ。
どれほどの時間が経っていたのかわからない。
もしかしたら、それほど経っていないのかも知れない。
誰かがゼミ室のドアを開けた。
「あ。雨賀谷さん」
そう声を掛けられる。振り向くと、そこには同じゼミ生の男の子がいて「何してるの?」と。
「え……、あっ」
気を取られていると、その人が横を通り過ぎてゼミ室を後にした。
「誰…今の人…?教授の新しい助手さん…?」
「ぁ、私…、ちょっとっ!」
慌てて、ゼミ室を飛び出して、その人の背中を追う。
以前、こんな風に、誰かの背中を追っていた気がする。
不安定な足場で、文句を言いながら。
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