epilogue.

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「っあの…!」  声を張る。  伝わるように、引き止められるように。  またその人が振り返り、足を止めた。  なんて言おう。なんと、言おう。  目頭が熱くなる。なんでだろう、  涙が、込み上げてきた。 「わたし…」 「お、れ」  声が重なった。その人もまた、私と同じように今にも泣き出しそうな顔で、私を見つめるんだ。  その人の持っていた本が、音を立てて落ちた。  慌てて駆け寄り、「大丈夫ですか?」と、手を伸ばした。  落ちた本に届く前、その表紙に、ぽつり、と雫が落ちた。  表紙の青が、タイトルの〝文〟という字が、ぽたぽたと水滴に濡れていく。  まるで飛び散った雨粒が優しくシミを作っていく様を、私は何も言わずただ眺め、  そうして、顔を上げた。   「泣いてる」  私が言ったのか、彼が言ったのか。  互いの声が重なり、なんだかおかしくて笑った。  どちらの頬も涙で濡れていて、あまりにも妙な光景で、おかしくて、もどかしくて、一頻り泣いた。  嗚咽が出るほど、声が出なくなるほど。  笑って、泣いてを繰り返して。  生きている温かさを感じながら、もう一度だけ訊ねた。
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