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何だか時代を感じる家だった。
全て木材で出来ているのだろう。匂いも独特。ここから見える台所の冷蔵庫には沢山のマグネットが張り付けられ、居間の棚には所狭しとカレンダーが吊られていた。
奥の仏壇には、おばあさんの写真が飾られている。
焚かれた線香からは旗のような煙が出ていた。それがとても、違和感だった。
おじいさんは隣で愚痴を言っているおばあさんになんてちっとも気付かない。気付く訳がない。
私の耳には、おばあさんの声も、おじいさんの鳴らす生活音も、こんなにもはっきりと聞こえるのに、おじいさんにおばあさんの声は聞こえていないのだ。
「―――花火」
不意に振り返ると、薊森田が破けた襖を隠すように貼ってあった新聞の記事を眺めているところだった。
そういえば、部屋の至る所に花火の写真や記事が飾られている。
「おじいさん、花火職人だったんですか?」
薊森田のこの口調、態度。慎ましく、礼儀正しく見える。私の時とはえらく違うな。
『ええ。私は教師をやっていたからちっとも花火には詳しくないんだけど、この人の作る花火はとても綺麗だったと思ったから写真で撮ったり切り取って貼り付けたりしてたのよ。でもそうする度にこの人は文句ばかり言って…全くうるさいったらなんのって』
再び愚痴に戻る。薊森田はただ「そうですか」と頷いていた。
カチャカチャ、と。不意におじいさんの生活音が耳に入って来た。
向こうではおばあさんの愚痴を薊森田が聞いている。
振り返ると食事を終えたおじいさんが、お皿を片付けているところだった。何も言わず、何も気付かず。
おばあさんはあれだけ愚痴を言っていたけど、部屋は綺麗に整理されているし、確かに料理は不器用だとしても目立って文句を言うような場所は見当たらなかった。
ただ、これだけ綺麗に整理された部屋なのに、何年にも積み重なったカレンダーやごちゃごちゃしたマグネットや新聞記事などはそのままにしてあるのだ。
まるで賑やかなまま置いて行けぼりにされているような、そんな違和感がこの家にはあった。
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