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コスプレ死神
中学生の頃から、死ぬ時には壮大な走馬灯が目紛しく脳内を駆け巡るのだろうと想像していた。
けど、実際はとても地味だ。全体的にあっさりしていて味気がない。
一言で言えばつまらなかった。
あの声を除いては。
あの生魚を素足で踏み潰したような「げっ」という声はなんだったのか。
何もかもスローモーションで靄がかかったような音しか聞こえなかった中で、あの声だけは輪郭を持ってはっきりと聞こえた。
不思議だった。そういえば見た目も不思議だった。
まさか私は、あんなコスプレ野郎に殺されたとでも言うのだろうか。
だとしたら虚しい。そこだけが自分の人生史上いただけない。
まあでも最後ぐらい妥協してもいいかも知れない。安らかに死ねれば。
その辺は来世に期待だ。とりあえず生まれ変わるまでおやすみなさい。
遠ざかる意識の中でそんな事を思いながら、私は深い深い闇の中へ落ちて……、
「…い…お…ろ…おいって」
い…く……?
「…ん?」
誰かに肩を揺すられていた。あれ、私まだ実体化しているのかも。
「起きろ!」
「ぶっ!」
頬を叩くように潰された。薄らと瞼を開けた先、どこかで見たことあるような顔が逆さに映っていた。
「起きたな?よし、まだ『うつし世』と繋がってる筈だからこのまま戻るぞ。まだ間に合う」
相手は随分焦っているようだ。私の頬を挟む手に遠慮がない。
「あんた……だれ?」
まだ定まらぬ意識の中で怪訝そうに問うと、相手は「あ?」と形の整った眉を同じく訝しげに寄せていた。
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