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「どうしたんですか、そんなところで」
「…」
「……家にいるんじゃなかったんですか?」
「………音が懐かしくて、」
なんとなく家を出たんだよ。言葉は続かなかったけれどそう言っているようで思わず笑ってしまった。
「もう少し見ていきますか?」
「……せっかくだから」
それ以降、会話はなかった。
ただじっと夜空に打ち上がる花火を眺めて、たったそれだけ。
それだけだった。
帰り道はどちらともなく手を繋いだ。嘘、『私』から手を伸ばして、そっと握って貰った。
「恥ずかしい」
本当に。昔と比べて大分しわしわでかさついた手だったけど、久しく握った手のひらはそれはそれは温かくて思わず笑みが零れてしまった。
とにかく不思議な夜だった。夢のような夜だった。
とっても、幸せな夜だった。
「ああ光代、光代。どうして…行かないでくれ、わたしを置いていかないでくれ…」
泣かないで、泣かないでおじいさん。
姿が見えなくなっただけじゃないの。声が聞こえなくなっただけじゃないの。
『私』はここにいるんだから。大丈夫よ。
あなたの傍で、あなたが寂しくないように。
傍に。
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