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悪質な悪戯だと思った。近所の子供か、暇を持て余した大人の仕業か。
文字があの人のものではないし、便箋がとても綺麗なものだから、数年前にとても書いたようには思えなかった。
でも何故だか。
怒りがわいてこない。この手紙が、この文字が、あの人からものだと思えて仕方がない、仕方がないのだ。
「……便箋の書き方も知らんのか、あいつは」
吐き出した声が震えていた。
誰が書いたかも知れない手紙に、柄にもなくぼろぼろと涙を流した。
小言のつきない人だった。
何かと口うるさい人だった。
ああ言えばこう言う、気の強い女性だった。
思い返せば、あまり相性はよくなかったのかもしれない。
言い合いばかりの毎日だった。それでも、結婚をしたことを後悔したことは一度もない。この人となら一生を添い遂げられると昔もそして今も、ずっと思っている。
あの日だけ。あの日に限って、どうしてあなたは花火を見に来られたのですか?
あの日。あの年のあの日だけ。どうして。
それは、それはおかしな話かも知れないけど。
不意に、お前が遠くに行く気がしたんだよ。
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