花ひらく君へ

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   いや、お前だけに限った話じゃない。  もしかしたら明日、突然いなくなるのは、自分だったかもしれない。  当たり前だった日々が、時間が、突然なくなってしまうかもしれない。そう思ったのだ。  実際いなくなったのはお前だったけど、そんな予感がした。  本当に不思議な話だが、吸い寄せられるように祭りへ向かった。  今日行かないと後悔する。そんな気がしてならなかった。  ただあれだけ行かないと言ってしまった手前、声をかけ辛くて後ろをこっそりついて回った。  久々の縁日は大変混んでいて、年を取ってやはり人の多い場所へわざわざ出向くことはないなと改めて思ったのも懐かしい。  木の幹に寄りかかり、疲れた身体を休めていた。快晴の星空だった。  黒いキャンバスに混ぜた絵具を吹き付けるよう、ひっきりなしに上がる花火はそれは見事なものだった。  いつの時代も変わらず色褪せないものがこの世にはごまんとあるのだと、改めて思い知らされたような気がした。  引退した時はまだまだ現役でいたい、と意地を張っていたものだったが、見る側もいいものだ。  与えられる側も、いいものだ。     
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