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その後、あまりに花火に夢中になっていたせいか、ばあさんが近づいて来ている事に気付かなかった。
顔を合わせ、声をかけられたがあまり上手く反応出来なかったのは不意打ちを食らったせいだ。
手を振り払わなかったのは、『私』も嬉しかったから。
とても嬉しく、気恥ずかしく、そして懐かしかったからだ。
皺だらけのかさついた、見惚れるほど綺麗でない手が温かく、それでいて、優しかったから。
「急に花火を見たくなったんだよ、ばあさんと二人で」
理由なんてそれだけ。それだけなんだよ。
あれ以来、縁日には行っていない。花火も、見ていない。
光代さんの写真を眺めながら、まるで語りかけるように呟いていく。
どこかで聞いているのだろうか。聞いていたらいい。ああ、そうだ。
「今年は久しぶりに行ってみようか」
あの祭りへ。四年前に置いたままのあの日へ。
せっかくだから、弟子に会いに行こう。そうして花火の感想を聞かせてやろう。
ばあさんのように、小言のうるさいじいさんになってやろう。
「なあ、光代さん」
写真の中のお前は、とても笑顔だ。
そしてその笑顔を、『私』は大層、愛していたのだ。
「これでぐっすり眠れるだろうか」
眠れたらいい、眠ってくれたら、いい。
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