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六十年分の仕事
残留思念処理課を簡単に説明すると、行き場なく浮幽している魂の回収および成仏支援を担当している課らしい。
「いやあ、助かったよ。近頃は人口増加の影響で下界での浮遊魂の増量も凄まじくって、すぐさま働いてくれる子を探してたんだ。青天目に事情も聞いてるから、何かわからないことがあればすぐに言ってね」
千々波と名乗ったその人は丸眼鏡に薄黄色の丸みのある髪型で、どこか幸が薄い印象だった。
身長も低く、一瞬私の年下にも見えなくもないけどきっと年上なのだろう。
そして、その髪の隙間から覗く角を覗けば普通の人間っぽい。
この人は、薊森田と違って角一本しかないみたいだった。
「あの…、よろしくお願いします」
「うん。よろしく」
穏やかそうな人だ。見た目が中学生っぽいところを除けば…いや寧ろそれを加味したからこその癒しオーラを感じて何となしになごんだ。
因みに今は残留思念処理課の人達が使用している事務局を訪ねている所だ。
部屋の感じが現実の世界と似ていて、時折この世界は夢なのではないかと錯覚する。
「それにしてもえらいことを仕出かしたね、薊森田くん」
「……もう聞き飽きた」
「一筋縄ではいかないのがこの仕事だからね。六十年分なんて、無茶を言うなってところだけど…二人でってことなら、まあなんとかなるのかもしれないし、ならないかもしれないし」
「どっちだよ」
薊森田が呆れつつ言えば「大事なのは気合いだね」とその人は頬笑みながら、後ろで飛び交っていた紙を何枚か指ですいっとこちらに動かしていた。
そしてちょちょいと紙を膨大な束へとまとめ上げ、一つの冊子にし薊森田の前にふわりと浮かしていた。
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