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「疲れただろ、梗子。冷やしうどん食べるか?」
「わ、食べる、食べる! 尚ちゃん大好き」
いつの間にかちゃぶ台の上に、ガラスの器とツユの徳利が乗っている。たっぷりのネギと特大の油揚げが乗った冷やしうどん、あたしの大好物だ!
「長老達は、息災だったか」
ぞぞぞっ、とうどんを啜っていると、ソファーから静かに問いかけてくる。
「うんっ! ……ぞぞぞっ……今年も……ぞぞっ……バイトさん、揃えて……ぞぞぞっ……くれる、って」
「こら、喋るか食べるかどっちかにしろ」
「えー……ぞぞぞっ……訊いてきたの、和ちゃんじゃん」
モチモチのうどんを頬張りながら、上目遣いで睨むが、和ちゃんは意に介さない。
「梗子、今年はゾンビを出そうって企画あるんだけど、いけそうかい?」
すかさず、ちゃぶ台の向かいの尚ちゃんがあたしの気を拐う。
「……ぞぞぞっ……ゾンビぃ?」
「シゲさんが、ネット検索したら流行ってるって」
シゲさんは、定年退職後に覚えたPC操作とインターネットにハマり、齢70になった今も日課のネットサーフィンを欠かさない。そして毎年のように、彼が言うところの「流行り」を取り入れた斬新な企画書を提出するのだった。
「純和風のうちの村で、ゾンビだと?」
怪訝な表情で、憮然とした声が上がる。
「まーたー、硬いこと言うなよ、和」
「……いいよ、あたしがバイトさんを特訓するんだから」
うどんを平らげたあたしは、半分かじった油揚げをツユに浸す。
「いやー、頼りになります、梗子さん」
「全く。梗子は、尚に甘いな」
ちょっと大袈裟に頭を下げる尚ちゃんと、不機嫌そうにしながらも満更でない和ちゃん。
なんのかんの言って、この兄弟は仲がいい。
「ふふ。ちゃんと資料用意してよぉ。皆で見るんだから」
特大の油揚げを飲み込むと、あたしは笑顔で答えた。
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