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 やっぱり、実家(うち)はいい。  清水家の離れから、庭の奥の古びた(ほこら)に移ると、即刻、全裸になった。基本的にあたしは裸族。必要に応じて服を身に付け、髭や尾を隠し、人間の女性に扮しているが、他人の目がない実家では素に戻る。所謂、スッピンってやつだ。  脱ぎ散らかした衣服もそのままに、畳の上に大きく伸びた。 「こぉら、行儀の悪い!」 「ひゃっ?!」  突然、ドスの効いた雷が落ちて、あたしはくるんと丸くなる。 「脱いだら片付けないか! こぉの小娘が!」 「たまばぁ、起きてたの?!」  声の主の正体が分かったあたしは、パッと身を翻して白い毛玉に抱き付いた。  毛玉は金色の双眸を見開くと、フン、と荒い鼻息を立てて巨大な三毛猫に姿を変える。彼女の鉤型の尾は先がYの字に別れており、巷では「猫又」と呼ばれている。 「お前が騒々しいから、目覚めちまったのさ」  文句を言いながらも、彼女はあたしの衣服を1枚1枚拾っては、きちんと畳んでいる。 「たまばぁ、お土産あるよ」 「何さ、早速機嫌取りかね」  綺麗に重ねた服をスーツケースの横に置くと、彼女は紫の座布団の上に鎮座した。  素っ気ない物言いだが、期待が膨らんでいることが、ユラユラ揺れる尻尾に現れている。ふふ、正直なんだから。 「今年は樹海が豊作でね……13年ものの珍味もあるよ」  あたしはスーツケースの封印を解き、中から小さな黒い壺を1つ取り出した。蓋には、更に封じ込めの札を貼ってある。 「ほぅ、そうかね」  それはそれは……と呟きながら、たまばぁは金の瞳を三日月の形にした。  壊れ物を扱う手つきで壺を確り掴むと、真っ赤な長い舌が口の周りをペロリと舐めた。右手の人差し指の爪先で、ピリリと封を破った途端――ヒャアアアァ……と甲高い(つむじ)風のような悲鳴が上がり、亡者の気配が吐き出される。 「あぁ、これは上物だ」  たまばぁは小さく呟いて、壺の中から黒くでろんとした塊を摘まみ上げると、美味そうに口に運ぶ。  全身の体毛をふっくり膨らませ、眼をうっとり閉じて味わう。ご満悦の表情だ。
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