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「……ごめんくださーい」  玄関の方から、聞き慣れない声がする。 「すみませーん。誰か、いませんかー?」 「……梗子、お客さんだよ」 「えー、眠いよぅ。たまばぁ、出てよぉ」  祠の寝床で丸くなっていたあたしは、半分うとうとしながら答える。 「こらっ! 実家に帰った時くらい働きな!」 「ヒャン!」  雷が落ちて、キュッと身を縮め――仕方なく梗子になった。白いTシャツにジーンズ生地のホットパンツ。実家だし、ナチュラルメイクでいいや。 「こぉら、尻尾!」 「あ」  ホットパンツから1本、フサフサがはみ出していた。いけない、いけない。 「お待たせしましたー」  母屋の玄関に人間の気配がある。本堂にも離れにも誰もいないところをみると、和ちゃんは檀家さんにお経を上げに行ったのかも知れない。  田舎のお寺ということもあり、清行寺は家人が留守でも玄関に鍵をかけない。お寺に空き巣に入るような不届き者はいないし、よしんば余所者が忍び込もうものなら、たまばぁが只ではおかない。仏罰より酷い目に遭うことは自明……あぁ怖すぎて、あたしの口からはとても言えません。 「あれ。優磨くん?」  お寺の玄関は、意外と広い。所在無く佇んでいたのは、昨日出会った小さな来村者、おヨネさん家のお孫さんだ。 「あ、おねぇさん」 「何、どうしたの? まぁ、上がってー」  彼が両手に掴んだ風呂敷が気になりつつも、とりあえず本堂に上げる。 「お邪魔します」  都会育ちのせいか、彼は礼儀正しい。脱いだ靴をきちんと揃えてから、あたしの後に付いてきた。  本堂の仏様の前を通過して、隣の8畳間に通す。法事などの控え室に利用される座敷は、小さなお客さんにはだだっ広い。 「麦茶しかなくて、ごめんねぇ」  グラスを2つ、お盆に乗せて戻ると、彼は包みを解いて大きなタッパーを2つ、テーブルの上に並べた。  ――おおお! この匂いはっ?!  隙間から漏れる微かな匂いに胸が高まる。フサフサが飛び出しそうになるのを、必死に堪えた。そりゃあ、幾らなんでも……あたしにだって羞恥心はあります。 「これ、おばあちゃんからです。お世話になったからって」
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