プロローグ

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凄惨な凌辱に泣き叫ぶエルフ達の哀しい木霊と絶望的な抵抗をはかる残党と残党狩りによって起こされる散髪的な干戈の音が響く森の奥には惨劇を何とか潜り抜けて再起を期する一握りの者達の姿があり、その中の一人であるヴァイスブルク伯国軍第三騎士団長ミリアリア・フォン・ヴラウワルトは戦いに疲れた身体を木陰に潜めていた。 エメラルドグリーンに塗装されたライトアーマに包まれたメリハリのきいた肢体とポニーテールに纏められた銀糸の髪に淡い煌めきを放つ蒼水晶の瞳の凛々しい美貌と卓越した魔法と戦闘技術からヴァイスブルクの蒼き風と呼ばれていた彼女だったが、2ヶ月に及んだ激しい攻防戦とその後の逃避行による疲労が全身を蝕んでおり、身を潜めた彼女はその疲労感に顔をしかめながら立ち上がると水の入った皮袋の先端を口に入れて生温い水を一口喉へと流し込んだ。 僅か一口だけで生温い水ではあったがそれは疲労した身体に染み込み、どうにか人心地つく事が出来たミリアリアは小さく息を吐いた後に更に森の奥へと進み始めた。 ミリアリアが歩を進めて行くに連れて後方から微かに聞こえていた干戈の響きは何時しか完全に消え去り、それに気付いたミリアリアは些か焦眉を緩めたが、緊張が緩んだ為に身体を蝕む疲労をより一層自覚させられてしまい、僅かに緩んでいた眉は今度は疲労によってしかめさせられてしまう。 疲労感に蝕まれる身体を叱咤しながら孤独な逃避行を続けるミリアリア、彼女が孤独な歩みを延々と続けているとその目の前に洞窟の入口が姿を現した。 それを確認したミリアリアは木陰に身を潜めながら様子を窺ったが、そこからは人や動物の気配は一才感じられ無ず、ミリアリアは沈黙に包まれた洞窟の入口を見詰めながら呟きをもらした。 「……風穴の類いか?」 そう呟くミリアリアの頬に雨粒が落ち、更に繁る木の葉の合間からも大粒の雨粒が降り注ぎ始め、ミリアリアは降り注ぐ雨粒の中自嘲の呟きをもらす。 「……お似合いだな、何も護れなかった、敗残兵の私には」 ミリアリアはそう呟きながら木陰から立ち上がり、降り注ぐ雨粒に我が身を晒しながら呟き続けた。 「雨露程度なら凌げるだろう、もしも盗賊や魔獣の住処だったとしても、敗残のこの身にとっては、ムシロ相応しいと言えるな」 ミリアリアは自嘲と自暴が入り交じった呟きと共に些か覚束無い足取りで洞窟の入口へと向かい、その姿が洞窟の中へ消えた。
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