第3章 烏合の戦場

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 直後、ヘドロから一本の刃が踊り出た。しかしこれも東雲は予期していた。  馬鹿のひとつ覚えに咽喉を狙う軌跡から首をそらして、指先に力を籠める。  パキリ、とかすかな音をたてて、種は粉々に潰れた。  その瞬間、床に広がっていた黒いヘドロがざわりと波打ち、細かく震えだした。  沸騰したような気泡が無数に湧いて、そこからひどい臭気を放つ黒煙が抜けていく。  次第にヘドロの色が薄くなり、表面が(おぼろ)に光りはじめた。  ――厳かな光景であった。  蛍のような光の泡が、ぽつぽつと漂いながら空へと昇り、真白な月に呑み込まれていく。  東雲は眼を細めてそれらを眩しげに見つめた。  最後に残されたヘドロに小さなのっぺらぼうの口が開き、かすかな声が耳朶(じだ)をかすめた。 「――……願わくば、お前の行く道に、禍事(わざわい)多からんことを」  消えゆく寸前までひねくれた笑みを遺して、魂の雫は遊ぶように宙をたゆたいながら、ゆっくりと天へ吸い込まれていった。  ヤツらしい、どうしようもない遺言である。  東雲は呆れた笑みをひらめかせながら、手の平でくるりと鋼鉄の銛をまわした。 「次の世ではせめて、笑って暮らせ」  穏やかに呟いた彼を目がけて、無数の矢が放たれた。
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