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「風変わりな着物じゃな。――地獄は地獄でも、南蛮の魔境に落っこちちまったのか? さすがにバテレンの教えまでは覚えてねェぞ」
さらに鬼の体格というものは、普通の人間と比べひとまわりもふたまわりも大きい。拳などは東雲の頭ほどもあり、これで殴られればまず骨はバラバラに砕けよう。
すべての衣類を脱がせ終わる頃には、軽く息が上がるほどの重労働であった。クマと相撲をとらされた気分である。
しかしせっかく着る物を手に入れたはいいが、いかんせん丈が大きすぎる。用途が分からない物もいくつかあり、上着の大部分は鬼の血で汚れていた。
東雲は物珍しげにひとつひとつ見分しながら、手についてしまった少量の血をなめとった。
「牛のような臭いじゃ。まだ新しいな……」
近くに他者の気配はない。鬼同士で殺し合いでもしたのだろうか。それとも、地獄には鬼すら襲う化け物がいるということか……。いずれにせよ、長居は無用である。
東雲は薄い布の衣を縦に裂くと、ふんどしとしてあてがった。鬼はゴテゴテとした革靴をはいていたが、大きさが合うはずもないので、仕方なく余りの布を足に巻き、足袋の代わりとする。
やけに頑丈な光沢のある袴も、丈が余った分は折り返し、だぼつく腰回りは裂いた布を帯として締め上げた。
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