14人が本棚に入れています
本棚に追加
― Ⅰ ―
暗闇を前にした時、人は無意識に光を求める。しかしそれは往々にして愚策である。
東雲は即座に瞳を閉じた。
後ろ手にすばやく木戸を閉め、石壁のすみに身をよせると、そのままじっと黙して動かなくなった。――暗夜における隠法の一種である。
いったん部屋へ取って返して、油皿から松明をつくれば、容易に暗がりの奥まで照らすことができるだろう。しかしながら、得体のしれないこの場所で考えなしに火を持てば、自らの存在をおおっぴらにさらすことになる。他者の気配がないとはいえ、用心するにこしたことはない。
鬼から拝借した衣が暗色だったこともあり、東雲の姿は溶けるように闇の中へと沈んだ。
最初のコメントを投稿しよう!