第1章 鬼ヶ島からの脱出

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   ― Ⅰ ―  暗闇を前にした時、人は無意識に光を求める。しかしそれは往々(おうおう)にして愚策である。  東雲(しののめ)は即座に瞳を閉じた。  後ろ手にすばやく木戸を閉め、石壁のすみに身をよせると、そのままじっと黙して動かなくなった。――暗夜における隠法(おんぽう)の一種である。  いったん部屋へ取って返して、油皿から松明をつくれば、容易に暗がりの奥まで照らすことができるだろう。しかしながら、得体のしれないこの場所で考えなしに火を持てば、自らの存在をおおっぴらにさらすことになる。他者の気配がないとはいえ、用心するにこしたことはない。  鬼から拝借した衣が暗色だったこともあり、東雲の姿は溶けるように闇の中へと沈んだ。
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