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壁の石材のひとつに、不自然にすり減った痕がある。まるでなにかしらの意図をもって、幾度もなでつけられたかのような痕跡だ。
まさか、という期待を抱きながら触れると、あきらかに噛みあわせがゆるい。
慎重に押しこんでいけば、石材はこまかい砂を巻きこみながら、すべるように壁の内側へと埋まった。
それが鍵だったのだ。
ガタン、と頭上で音がして――次の瞬間、予期せぬことが起きた。
「うぉおっ!?」
突然、四本の柱につながれた狭い一角を遮断するように、分厚い壁が降りてきた。
あっという間に退路を断たれ、東雲は咄嗟にそれを蹴りつける。しかし、隙間なく立ちふさがった四枚の壁は、頭上の天板と同様の金属でできており、どれほど力を込めようとビクともしない。
そうこうしているうちに、足もとの石床がガタガタと振動をはじめ、東雲はたたらを踏んだ。
信じがたいことだが、どうやらこの空間全体が地盤から切り離され、ゆっくりと上昇しているらしい。これにはさしもの彼も、警戒した猫のように身構えた。
漆黒の闇の中、狭い金属の箱が石壁をこする硬質な音が、忍の鋭敏な鼓膜を叩く。
箱は、見えない力に引っ張られるかのごとく上昇を続け、みるみる下層部が遠のいていく……。
東雲の脳裏に、最悪の事態がよぎった。
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