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もしも、この仕掛けが侵入者を誅殺する類のものだったとしたら、いかに忍の術を心得ていようとも、あえなくおだぶつである。
東雲はつとめて体勢を低くかがめ、全方位に神経をとがらせた。
息がつまるような暗闇の中、耳ざわりな鳴動だけが刻一刻と時をけずる。
しかして、機はほどなく訪れた。
突然なにかにぶつかるような衝撃が走り、上昇移動によって圧迫されていた胃の腑がひっくり返る。
直後、あれほどかたくなであった金属の壁が、するすると上へ開いた。
東雲は転がるように箱の外へと跳び出した。
謎の仕掛けによって強制的に移動させられた上階は、地下とさほど代わりばえのしない石造りの部屋であった。
東雲はしばらくあたりを警戒して身構えていたが、特段罠のようなものも見受けられず、肩の力を抜く。
むしろ呆気にとられるほどの静けさである。
取り立てて地下との違いをあげるとすれば、天井から降り注ぐ淡い光くらいか……。
「……なんじゃあ、あれは」
東雲は眩しげに手で目もとを覆いながら、頭上の光源をあおぎ見た。
ほこりっぽく湿った闇に、摩訶不思議なものがチラついている。――石だ。
青白く光る奇妙な石が、天井に取り付けられた木製の台座にひっそりと鎮座している。
大理石のように白いその石は、夜空に輝く月を彷彿とさせる淡い光を放って、あたりをほのかに照らしている。その美しさたるや、数多の宝石が路傍の石ころに思えるほど蠱惑的であった。
「これまた面妖な……」
東雲は近づいて、ほうっと感嘆の息をこぼした。
部屋の片すみに、火の灯っていない油皿が備えられているのを見るに、照明のための石ではないらしい。
石の真下には、先ほど東雲の心臓をおびやかしてくれた金属の箱があった。まるで光る石に吸い寄せられるかのごとく、ぴたりと触れ合い静止している。
東雲は片眉を跳ね上げた。
どうやらこの大掛かりな仕掛けは、侵入者を退けるためではなく、重い荷物などを地下へと運ぶ昇降機のようだ。床に幾筋もこすれた痕があることから、まず間違いないだろう。
しかしそれにしては、石と箱の間に吊りあげるための縄や鎖のようなものがない。
仕掛けは、文字通り宙に浮いていたのである。
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