第1章 鬼ヶ島からの脱出

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  「……はてさて。こんなもん、浮世では決してありえんよなァ」  思わず、にんまりと口の端が引き上がる。  得体の知れない物に対する警戒はもちろんあったが、それよりもいよいよ現実離れしてきたことに、愉悦の気持ちがにじみ出たのだ。  東雲は好奇心のおもむくままに跳びあがって、箱の上へと身を躍らせた。  わからないモノは徹底して調べずにはいられないのが、忍の(さが)なのだ。  男ひとり分の重さで仕掛けが下降し、石との間にわずかな隙間ができる。  しかしそれらは依然として引きつけ合ったまま安定していた。 「お?」  構わず箱の上に乗りあげると、またしても変わった物を見つけた。  下からではわからなかったが、仕掛けの上部には網目状の金属でつくられた(かざ)(かご)がついており、中の空洞が透けて見えた。その中に、黒い(はす)に似た花が浮かんでいる。  ――そう、浮かんでいるのだ。  光る石も珍妙であるが、格子の中でくるりくるりと回る花もまた異質である。  もしや、これが宙に浮くカラクリの核心部分なのか……。  東雲は短くうなった。  さては、この黒い花か光る石のどちらかが、強い磁力を帯びているのではないか。
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