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まじまじと観察しながら、東雲はそのような仮説を立てた。
伊賀の忍は、星のない夜に方角を知る道具として〝耆著〟という方位磁石を携帯するほど、この時代にしては珍しく磁気に関する造詣が深い。それ故の発想であったが、しかしいくらここが地獄だからとて、このような形状の磁石などありえるのだろうか。
物珍しさのあまり、無意識に身を乗りだしていたのだろう。
東雲の身体が石の光をさえぎって、黒い花の上に影をつくった。――その直後、足もとの仕掛けが、突然重力を思い出したかのようにけたたましい音を立てて落下した。
どうやら磁力ではなく、石の光に吸い寄せられて、花は宙に浮いていたのだ。
そんな悠長な考察をしている場合ではない。
「おぉおっ!?」
ほぼ反射的に東雲は光る石をつかんだ。
拳ほどの大きさしかないそれは、半分ほどが天井に埋まっており、つかめる面積はわずかしかない。
「くっ、ぉ、お!」
間一髪、宙づりとなった身体の真下で、今しがた昇ってきたばかりの縦穴が、ぽっかりと底知れぬ暗闇を湛えたたずんでいる。
ひやり、と肝が冷えた。
東雲は手汗ですべりそうになる指先にありったけの力をこめ、体を前後に揺らすと、からくも上階の足場へ舞い戻った。
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