第1章 鬼ヶ島からの脱出

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    ――はやくも二度目の死をむかえるところである。  情けなくも動揺する心臓をなだめている間に、再び階下から件の箱がすーっと音もなく浮上して、なに食わぬ顔でもとの位置におさまった。 「…………」  東雲は誰が見ているわけでもないのに、ばつが悪そうな面持ちで視線を泳がせた。  一体自分はなにをやっているのか。 「浮かれているのは俺の方だってか……。やかましい、自覚してるわ」  無理からぬことだ。  ここは伊賀の里でもなければ、彼を縛る伊賀者は誰一人としていない。十数年もの間囚とらわれていたしがらみから解き放たれた今、平常心を保てという方が土台むちゃな話なのである。  しかしこれでは、いつ再びころっと死んでしまうかわからない。  東雲は気合を入れ直すように両頬をたたいた。 「臨兵闘者(りんぴょうとうしゃ)、以下省略!」  喜ぶのはまだ早い、と喝をいれる。  しかしその姿すら、やはりどこか楽しげであった。
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