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― Ⅱ ―
まことに皮肉な話であるが、伊賀の捨て石として何度も敵地へ放り投げられてきたこの男にとって、見知らぬ土地からの脱出は、数少ない得手のひとつである。
思いのほか、外への出口はすぐに見つかった。
しかし問題はここからであった。
(……鬼じゃ)
建物の玄関とおぼしき場所の前に、赤ら顔の大柄な鬼が二人立っている。
残念ながら、今度は死体ではなく生きていた。
門兵なのか、胸当てのような防具を身につけ、手には東雲の太腿よりも大きな金棒をたずさえている。
暇を持てあましているのか、彫りの深い金の眼は気だるげに瞼を重くして、時折あくびをもらしている。くわり、と開いた肉厚な唇のむこうに、虎のような牙がずらりと並んでいるのが見てとれた。
(くわばら、くわばら……)
東雲はすぐさま尻尾を巻いて、すごすごともと来た道を引き返した。
臆病者と罵るなかれ。せっかく拾った命である。極力危ない橋は渡りたくないのが人情というものだ。
やはりここは鬼の牙城のようである。
しかしながら、はて、と東雲は首を傾げた。
日ノ本の城において、門兵というものはおしなべて外に配置するものだ。大手門のように一人では開けられない巨大なものや、内側から閂をかけているならば話は別だが、あの扉はごく普通の小さなものだった。
にもかかわらず、あの鬼たちは内側を警戒するかのように立っていた。
そこから導かれる答えはひとつ。建物内にいる何者かを逃がさぬようにするため、と考えられる。
もしかしたらここは城ではなく、牢獄のような場所なのかもしれない。
(……あな恐ろしや)
とにもかくにも、一刻も早く姿をくらましてしまうにかぎる。
東雲は他の脱出経路を探した。
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