第1章 鬼ヶ島からの脱出

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 しかし、これがなかなか見つからない。  というのも、この石造りの建物には窓らしい窓がなく、あったとしても東雲の頭すら通らない小さな空気穴だけなのだ。等間隔に焚かれている篝火のため、見落としがあるはずもない。  東雲の足は自然と、建物の奥へ奥へと進んでいった。  玄関のある場所からもっとも離れたどんづまり、よどんだ空気が溜まる一角に、新たな通路を発見した。数枚の扉がぽつぽつと並ぶ薄暗い廊下が、左右に一本ずつ伸びている。  そこから何者かのうごめく気配がした。  ――引き返すべきだ。東雲は無意識に一歩後ずさった。  とどこおった空気の様子から、この先に脱出口がある望みは薄く、重ねて奥からおびただしい数の生者の息遣いが伝わってくる。  身の安全を第一とするならば、到底この先へ行くべきではない。  しかしながら、東雲は廊下の最奥をにらみつけたまま、逡巡するように踏みとどまった。 (さすがに、トントンとはいかねーか……)  引き返したとて、他の場所はあらかた探索し終わっている。  すでに頭の端では、この建物の出入り口が先程の玄関以外にないのではないか、と薄々勘づいていた。  もしそうであるならば、多かれ少なかれなにか策を講じねば、あの場所を突破することは難しい。  前門の虎、後門の狼――ならぬ、前も後ろも鬼だらけの地獄で立ちまわるには、握っている情報があまりにも少ない。  策を練るなら、まずは敵を知らねばならぬ。 (――ええい、ままよ!)  腹をくくってしまえば、東雲の行動は早かった。  音もなく歩を進め、数ある扉の中でも飛びぬけて気配が多い右の廊下の一番奥に目をつける。  ぴたりと扉に張りつけば、木の板ごしに生きている者のざわめきが伝わってきた。しかし、少なくとも扉の近くには何者も立っていないようである。  意を決し、深く長く息を吐くと、動いているのかさだかではないほど緩慢な手つきで取っ手を押していく……。  湿った分厚い木戸をへだてたむこう側――わずかに開いた隙間の先にあったのは、痩せ細ったみすぼらしい青鬼たちが、ひしめくように鎖でつながれている姿だった。
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