14人が本棚に入れています
本棚に追加
(なんだこれは……)
服装も露骨である。ズタ袋のような薄い衣しかまとっていない青鬼と、上等な皮や金具を幾重にも身につけた赤鬼。覆しようのない格差が、厳然としてそこにあった。
青鬼たちは一様に下をむき、身動きすることすら恐れるように、震えながら肩をよせあっている。中には泣いている幼い子供もいたが、奇妙なことに声をあげることなく、わずかな嗚咽すらもらさない。 ――物音をたてれば暴力をふるわれると知っている、奴隷の泣き方である。
東雲は鼻白んだ。目に映るすべてを遮断するかのように、無言で扉を閉じきびすを返す。
――不快であった。浮かれていた心に冷や水をかけられたような気分だ。
忍として生きてきた東雲は、お世辞にも慈悲深い男とはいえない。虐げられる者を見て、我が事のように悲しむなどという純真さは、とうの昔にささくれてしまっている。
ゆえに、この感情の揺れは、青鬼を哀れに思ったからではない。
ただ、無性に気に食わなかったのだ……。
先ほど見た光景は、忌々しい伊賀の里で日常的におこなわれていた蛮行と、あまりに似ていた。似すぎていた。
人が人を虐げるのが当たり前だった現世と同じように、鬼もまた鬼を虐げるのだ。その事実に、東雲は自分でも驚くほどがっかりしていた。
(――いけ好かねェ……)
自分を縛り、あまつさえ死においやった理不尽が、ここでもまかり通っている。あの光景を目の当たりにした瞬間、地獄の恐ろしい化け物という認識だった赤鬼が、憎き伊賀の上忍と重なって見えたのだ。それが感傷からくる錯覚だとわかっていても、湧きあがるイラだちを正すことすら億劫に思われた。
すっかり興をそがれた面持ちで、暗い廊下を引き返す。
(しょせん、此岸も彼岸も変わんねーな)
死後の世界で目覚め、歓喜に震えた気分は見るも無残にしぼんでいた。
こんなところ、とっとと出て行ってしまおう。先ほどとは似て非なる心持ちで、東雲は足を速めた。
最初のコメントを投稿しよう!