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― Ⅲ ―
廊下には他に二つほど扉があったが、どちらも中は空であった。
仕方なくもう一本の通路へ移動した時、奥の小部屋から物騒な物音が響いた。扉ごしに、なにやら興奮した男のだみ声が漏れ聞こえる。
「おらッ! そこだっ、潰せ潰せ!」
息を殺しながら中を覗けば、大量の木箱や樽が積まれた小汚い部屋の中央に、二人の赤鬼がいた。
そのうち一人は木箱に腰かけながら耳ざわりな喚声をあげ、もう一人は巨大な金棒を振りまわし、何度も床に叩きつけている。
なにをしているのかと思えば、彼らの足もとには、縦横無尽に駆けまわる小さな影があった。
――ネズミだ。
日ノ本のネズミよりもずいぶんと大きい、飴色の毛をもつ仔犬ほどの獣が、短い手足を駆使して懸命に鬼の鈍器から逃れていた。
醜悪な笑みを浮かべる鬼の表情から察するに、どうやらこの小さな獣をいたぶりながら叩き潰す〝遊び〟をしているらしい。
ネズミの胴には頑丈な鉄輪がはめられ、長く伸びた鎖の先にはネズミと同じくらいの大きさの鉄球がついている。なんとも悪趣味な絵面だ。
東雲はそれらの様子を白けた視線で眺めた。
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