第1章 鬼ヶ島からの脱出

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 人間の腕力では持ちあげるのもやっとであろう大振りな金棒を、片手で軽々とあつかう鬼の剛腕には戦慄を覚えるが……。  どうにもやっていることが下劣で幼稚なため、素直に恐怖する気分になれない。 (それにひきかえ……)  ネズミの身のこなしはなかなかのものである。圧倒的に不利な条件下にも関わらず、襲いくる凶器をすべて紙一重でかわすさまは、獣ながら天晴(あっぱれ)と言わざるをえない。  次第に獣の不規則な動きに翻弄されて、赤鬼の方が肩で息をしはじめた。観戦している片割れのあざけるような野次もあいまって、相当イラだっているのが見てとれる。  ネズミの走りを追うようにジャラジャラと蛇行する長い鎖部分をつかまえれば手っ取り早いものを、そうする素振りがないということは、やはり娯楽の側面が強いのだろう。  おおかた仕掛けたのは鬼の方であろうに、思うようにいかぬと腹をたてようとは、ずうたいに似合わずみみっちい懐の浅さである。  ついには、文字通り足もとにもおよばない矮小(わいしょう)な獣にむかって、口汚く喚き散らしだした。 「ちょこまかしやがって! 調子こいてんじゃねーぞ、クソ汚ぇドブネズミが!!」 「ドブネズミではない!!」 (――……あ?)  しゃべった……。
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