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東雲はぎょっとネズミを凝視した。――……聞き間違いだろうか?
驚きのあまり硬直する東雲の目の前で、ネズミは鬼相手に臆することなく胸を張り、高らかに名乗りをあげた。
「我こそは、誇り高きチミー族の戦士トト! 弱きを虐げ、暴利をむさぼるしか能のないデクの坊どもに、決して屈しはせぬ!!」
凛としたその声は、磨きあげられた一本鎗を想わせる鋭さをもって、よどんだ空気を切り裂いた。
屈辱的な窮地にありながら威風堂々たるその姿は、躰こそ小さくとも歴としたひとかどの勇士である。
目を奪われるとはまさにこのこと。
東雲だけではない――鬼ですら、この小さき者の雄々しい覇気に呑まれた。
その一瞬の隙を獣は見逃さなかった。
雷光のように駆け抜け、荷の山に躍りあがると、積み上げられた樽のひとつに長い鎖を引っかけた。ごろりと樽が倒れ、したたかに床へとぶつかる。
木蓋がはねとび、中から琥珀色の液体が飛散した。――油だ。
ぶちまかれた薄い波が、瞬く間に床全体へと広がった。
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