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「っ、積み荷を!? よくもッ!」
慌てて伸ばされた手をひらりとかいくぐり、そのまま下へ飛び降りると、鬼の足首へ長い鎖を絡ませる。
体勢を崩した鬼は、油で滑る床へもんどりうって倒れた。
流れるような見事な策である。
たたみかけるように、ネズミは倒れた鬼の太い首へ鎖を巻きつけるや、そのでっぷりとした赤黒い脇腹に思いっきり噛みついた。
皮膚を食い破る痛みに飛びあがった鬼の動きにつられ、鎖の先端につけられた鉄球が、重力という助けを得てその首を絞めあげる。
(――……入ったッ)
狙ったのか、はたまた偶然か。
鎖が食い込んだ位置は、ちょうど太い血管が通る人体の急所であった。あそこを圧迫されると、脳への血流が遮断され、人間ならばものの数秒で落ちる。
どうやらその点は鬼も変わらないらしかった。
みるみるうちに瞳の焦点があわなくなり、混乱極まった赤鬼は、的外れにも食らいついたネズミをひっぺがそうと奮闘した。
しかし暴れれば暴れるほど、鉄球がギリギリと首を絞めつけ――ついには泡を吹いて失神した。
鬼の巨躯が倒れゆく刹那の光景が、東雲の眼に、やけにゆっくりと焼きついた。
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