第1章 鬼ヶ島からの脱出

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(――なっ、にやってやがるッ!?)  全身総毛だつような戦慄が走った。  すぐさま身をひるがえし逃げをうちかける。  しかし東雲の意に反して、彼の足はさらに一歩前へと踏みだした。  敵前へ出たからには後退(あともど)りは許されないと、頭で考えるよりも早く、本能が結論づけたからであった。 「~~っ!」 こうなってしまっては、もはや破れかぶれである。  東雲はいまいましげに舌打ちすると、上体を低く倒し、赤鬼の死角を全力で駆け抜けた。  一気(いっき)呵成(かせい)に膝裏を蹴りつけ、こちらへ背をむけて仁王立つ鬼の体勢をわずかに崩す。  直後、驚異的な腕力によって振りおろされた金棒が、ネズミの真横にある石床を蜘蛛の巣状に砕いた。  見かけに違わぬ恐るべき蛮力である。  こんなもの一発でもくらってしまえば、人の身体などあえなくひき肉と骨粉に早変わりだ。  ぞっと血の気が引き、一瞬にして脳裏に〝死〟の文字が焼きついた。
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