序章 東から来た男

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   白い月が()()えと照らすその下で、血にまみれ、毒に侵され、なかば獣のような風体で東雲は抗い続けた。  それは文字通り身を削る死闘であった。  もはや正常な思考などは存在しない。忍びの術も、人間としての矜持もかなぐり捨てたその姿は、まるで生存欲という狂気が四肢を得たようであった。  暗夜の風吹く笠取山(かさとりやま)に、いくつもの骸の道ができた。  そしてついに、何人目かの喉笛をつらぬいた時、その場に立っている生者は東雲だけになっていた。  十三人すべて殺したのか、はたまたこれ以上手をかけずとも助からぬと判断し、引き上げていったのか……。いずれにせよ、逃げ出すには千載一遇の好機である。伊賀国の境は目と鼻の先にまで迫っていた。 (――死んで、たまるか……、死んで……ッ)  しかし、現実は無情である。  東雲は、もはやそこから一歩も動くことすらできずに倒れ伏した。  とめどなく流れ出る血で濡れそぼった衣が、ぐじゅりと不快な音をあげ、咳きこむ口からも生ぬるいものが飛び出した。痛みはすでになく、もはや呼吸すらままならない。片方の瞳はつぶれ、暗く狭まった視界からじわじわと光が奪われていく。     
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