序章 東から来た男

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 いよいよ終わりが近づいていた。  かすむ視線の先には、一足先に物言わぬ屍となった同朋が一人、土の上に転がっている。もうすぐ自分もあのように、無価値な肉袋となるだろう。  死の淵に横たわりながら、東雲は唐突に、自分の中心がぽっかりと空洞になってしまったような喪失感に襲われた。 (――なんだったんだ……なんだったんだ、俺の人生は……!)  生きるために身を削り、目的もなくただ生きて――最期はなんの意味もなく死んでいく。  なんて空虚な一生だろうか……。 (っ、冗談じゃ、ねえ……ッ)  ぎしり、と奥歯が鳴った。東雲は鉛のように重い腕を強引に伸ばし、かたわらの巨木をつかんだ。――どこにそんな力が残っていたというのか。この期に及んで、彼はまだ生にしがみつこうとした。  根の部分が二股になっている杉の幹へ、ほぼ死肉となり果てた身体を引き上げる。 (死んで、たまるか……ッ!)  いやしくも、事切れるその瞬間まで、東雲は一心不乱に命の糸を離すまいとした。  しかしそんな無様な抵抗も虚しく、彼の意識は深い霧の底へ沈んでいったのである……。
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