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そうと決まれば、まずは先立つ物を得なければならない。
浮かれてすっかり失念していたが、今の今まで、彼はずっとまっ裸で猛っていたのだ。新たな門出にこれはいただけない。
東雲の視線は、おのずと石床に転がっている鬼の死体へたどりついた。
「あー……、つかぬことを聞くが、鬼も涙する時があるというだろう。お前さん、俺を哀れと思ってくれるなら、ちょいとめぐんではくれんか。なァに、死後に徳をつむというのもなかなか乙なもんだぞ」
勝手きわまりない適当な言い分を並べたてながら、東雲はいそいそと鬼の衣服を剥ぎにかかった。
ここでなんの躊躇もしないあたりが、彼が地獄に堕ちたゆえんに違いない。もっとも、忍に慈悲だの人情だのを説くこと自体おかしな話ではあるが……。
それはそうと、鬼の服というものはなんとも珍妙である。日ノ本の着物とはまるで違うつくりの衣服に、東雲はやや手間取ってしまった。
どちらかといえば堺の港にやってくる西洋人の装いに近いだろうか。特に皮製の分厚い上着などは、いたるところに留め金がついており、無駄に複雑な構造をしていた。
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