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その後も、子供の教育方針や入学先、はてはバカンスの行き先や子供の数就職先等で決闘したという。
「だからね、ここは私達の忘れられない思い出の場所なの」
奥さんは、寝入っているダンナさんの頭を撫でながら そう言った。ダンナさんは相変わらず寝ている。
独り者の私には理解できないプロセスだ。そもそも私がこの人の彼氏なら、最初の結婚しない、の一言で別れてる。好き合うというのは、こういうことなのかと、あらためて実感する。
「でね、私達ここに決闘しに来たの。どっちがプロポーズするかってね」
え、さっき聞いたぞ?
「ここは私達の思い出の場所なの……」
この言葉は、私に対して言ったのか、それとも一人言なのか判別できなかった。ただ、奥さんの目は私を見ていずに、また目の前に広がる思い出の地を見ているのでもない、過去の思い出の地を見ているのはわかった。
そして奥さんは、今日、今さっき私に話した内容を繰り返し話はじめる。
私は頷きながら、奥さんを注意深く観察し始めた。そしてそれは間違いないだろうと結論づけた。
「奥さん、すいません。知人からの電話のようです。ちょっと席を外しますね」
奥さんは、あらそう と答えたのち、ふたたび誰ともない相手に話はじめた。
私は5メートル程離れて、かかっていないスマホを取り出し、こちらからかける。
「……ええ、そうです。キソ川堤駅から川下に15メートルくらいの所です」
……電話を終えた私はふたたび奥さんの横に座りなおす。
「……それでね、この人ったら、もう言ったんだから、今度はそっちから言えって言うのよ……」
適度に相づちをうちながら、ダンナさんの方を見る。指先からトカゲが這って手の甲に進んでも身動きひとつしないでいる。
遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
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