01:小川三水の[この川原は二人の思い出の地となる]

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「……つまり偶然出会ったと、そういう訳だね」 ええ、と私は答えた。 私は今、壱ノ宮警察署にいる。老夫婦を警察に通報して状況説明したら、それで終わりと思っていたのだが、 聴きたいことがあるというので、署まで連れてこられたのだ。 「ほんとは君が御夫婦を連れ出したんじゃないの? 」 疑うように覗き込む目の前の、おそらく私服刑事なのだろうが、そいつの言い方に少しムッとした。 「冗談じゃない、初めてあって話しただけで何でそんなこと言われなきゃならないんです。大体そんなことしていたら通報なんかしないでしょう」 刑事は表情を抑えながら 「連れ出したはいいが、片方は認知、もう片方は亡くなっているんで、もて余したから第一発見者になって通報したかもしれないじゃない」 「なっ!! 」 何てことを……、と言いかけたが、しかしそういう場合もあるか。どう証明できる? そうではないと。 私は考えた。自分が冤罪になりたくないのは勿論だが、小説家の端くれとして、この土壇場を抜け出すアイディアを出したい。私は考えた。考えに考えたが、まだアイディアがでない。 「もう降参ですか」
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