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「私がここで事情聴収されているのは、そういう背景があったからなのですね」
「そうなんです、病院もご家族も落ち度が無い事を証明したかったんでしょう。あなたが連れ出した、唆したと言っているんですよ」
冗談じゃない、そんな責任なすりつけられてたまるか。私が犯人じゃないと証明してやる。決意あらたにしている私を尻目に、刑事が話を続ける。
「まあ、病院、乗っていったタクシー、駅、電車の防犯カメラに行動が映っていますから、そんなこと無いと分かってますがね」
へ? 拍子抜けした私の顔が可笑しかったのだろう、クスリと笑われた。その顔に見覚えがある。
あ、思い出した。コイツ、以前私を職務質問した警官じゃないか。私の表情でわかったのだろう。
「思い出しました? その節はどうも」
深々と頭を下げられた。
「いつぞやの職務質問のお詫びに、小説のネタを提供しようと思いましてね、ご気分を害されましたか」
そりゃ害されたがね、悔しいが確かにネタになったわ。
「いや、いいネタをくれて有り難う」
そのくらいの意地しか張れなかったのが、情けなかった。
事情聴取が終わり、警察署を出るともう真っ暗だった。見送ってくれた刑事が最後に教えてくれた。
「先ほど連絡があって、あの御夫婦、ダンナさんはあの場所に着いたくらいに亡くなっていたそうです。奥さんの認知がすすんだのも、おそらくそれがキッカケだと思われます」
まったく御縁の無い夫婦の、それもドラマチックな最後に出くわすとはなぁ。
夜空を見上げ、ご冥福をお祈りした。
ーー 了 ーー
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