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壱ノ宮市に走る私鉄の最北端に各駅しか停まらない駅がある。[キソ川堤]という、その駅に一人の男が降りた。カーキ色のキャップにベージュ色のシャツ、グリーンのベストにブルーのジーンズ、そして黒の運動靴。うん、絶対に変質者に見えないぞと私は思った。
私の名は小川三水、小説家である。
今日はライフワークであり、私の小説のテーマである、壱ノ宮市の歴史を調べに、ここキソ川堤にやってきたのだ。
乗ってきた電車が発車して通り過ぎ、堤防の踏切が上がり線路を渡り、堤防の上を川下に歩き始める。しばらく行くと石碑があった。
「ここか」
何代か前の陛下がここに立ち戦争の演習をした記念の石碑だった。鎖国制度が終わり、隣国との境界線やルールを決めるための、やむを得ない戦いだったとはいえ、争いは争いである。少し心が痛んだ。
ふと視線をずらすと少し離れたところに一組の男女がいた。桜の季節が終わり、初夏と呼ぶにはまだ早い この季節爽やかな風と新緑の風景が気持ち良い。土手に座っている二人組は、雰囲気からすると長年連れ添った夫婦の様だった。
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