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兆候
依然として雨は降り続けていた。
小さな窓を大粒の雫が激しくたたきつける。まだ湯気の立っているカップを片手に、ぼくは頬杖をつきながらその光景を眺めていた。
「これでどうだ」
カタンと耳障りのいい音で、ぼくの番になったと気づく。小さなテーブルを挟んで向かい側に座っていたジャックは、手も足も出せまい、といった自信に満ちた表情を浮かべていた。
「今日こそは勝ちを譲ってもらうぞ」
威勢のいい彼をよそに、盤上の駒に手を伸ばす。
「チェックメイト」
ぼくのことばを理解できなかったのか、キングが取られる様を呆然とみていたジャックは「あっ」とまぬけな声を上げて身を乗り出した。
「ちょっと待った」
「待ったなし」
彼の抵抗むなしく、ジャックの王は盤上から姿を消した。
「くそ、いつもあと少しってところで届かない。なんでお前には勝てないんだろうな」
彼が腕を組んで盤をにらみ、ううむと低くうなる。
「打つ手が分かりやすいんだよ。駒を置いておけば、後はそっちから来てくれる。こういうゲームはいかに相手の虚をつくかで勝敗が決まるから」
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