灼熱の中

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慌てて部屋に戻ろうとしたが、背後に回られドアを閉められてしまう。そしてドアの前に立ったまま俺を見つめている。 手に持った本と道具箱を抱えるように持ち、そいつから離れる。 「だ、誰だ」 やや上ずった声で尋ねる。 公的機関の職員だろうか。しかし、その場合は自分から名乗るはずだ。しかしそいつは黙ったままだ。 あと10分ほどで戻らなければならない。 「反応があった」 男の声だった。若くはないが年齢は不明。ゴーグルには反射した自分の姿しか映っていない。男の手にはガス検知器があった。 「たばこの成分だ。持っているんだろう?」 差し出せとばかりに男は片手を差し出した。 「何の事だ?」 すっとぼける。 この男は『たばこ吸い』だ。かなり前に、東京がこうなる前に法改正で事実上ご禁制となった嗜好物を嗜む連中がいる。彼らにとってこの灼熱期は都合がいい。地上には誰もいないからだ。地上で小さな小屋を作りそこでたばこを嗜んでいると聞く。 「それはなんだ」 指差したのは本と道具箱。 「そこから反応がある、そうだろう」 一歩踏み出す男。後ずさりする俺。二人の距離はそのままに部屋から遠ざかっていく。帰りの階段からも遠くなる。 (どうする) 頭の中で逃走ルートが出来上がらない。 壁際まで追い詰められ、見えたのが非常ドアの文字。 (外に出る?)     
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