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「シブヤン海の深度一〇〇〇メートルで旧日本海軍の戦艦、武蔵が発見されました。発見者は……」  たまたま点けたテレビ画面には海底に鎮座するかつての戦艦の姿が映っていた。深海の世界に取り込まれたそれは静かで小魚たちに身を委ね、眠っているようであった。その様子を小磯勇は食い入るように見ていた。  戦艦武蔵――。かつて実在したその戦艦は最高機密の下建造され、当時としては最大の主砲と船体を持ち、絶対に沈まない不沈艦だと謳われていた。 「へぇ、よく見つけられたね。深海一〇〇〇メートルだって」  一緒にテレビを見ていた勇の孫娘、清美の言葉も、彼の耳には届かなかった。 「私はね、武蔵に乗っていたんだよ」  突然の発言に、清美は驚き、勇の方へ振り返った。 「聞きたいかい?」  清美はこくと頷くと勇の正面に座って話の続きを促した。 「さて、どこから話そうか」 「全然知らないけど、大和と同じで大きい戦艦だったんでしょ?」 「そりゃあもう。絶対に沈まないと思っていたよ」 「なのに沈んだの?」 「そう。形あるものは必ず崩れ、命あるものは必ず死ぬ。それと同じだよ。武蔵はまるで弁慶の立往生のように。それでさーっと海の中に沈んでいった。私はそれを遠くからただ眺めていた」 「でもあんな大きな艦が沈むってことは、よほどだったんでしょう?」 「それはもう言葉では言い表せない地獄だったよ」
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