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三本の銃身が絶え間なく稼働し、足下に薬莢の山が出来上がる。虚しくも飛行機は無傷のまま武蔵の手前で急降下を開始した。爆撃機だ。
方位、仰角を合わせようにも曳光弾は爆撃機の後方に伸びていく。発動機の音が、すぐ近くで聞こえたかと思うと、腹についていた爆弾がゆっくりと降りてきた。鋼の金切り声が、鼓膜を通じて勇の脳内に直接恐怖心を煽り立てる。
目の前が水柱で覆われ「当たったか!」と誰かが叫んだ。一瞬で濡れ鼠になり、姿勢を崩さないように弾倉にしがみついた。
水柱が消えると、武蔵は依然と最大戦速でその巨体を奮わせていた。思わず笑みが零れる。爆撃機は反転し、機銃掃射を仕掛けてくる。そんなことで怯んではいけないと分かっていながらも、鉄兜を押え、腰を沈める。
武蔵は取舵、面舵と急速回頭をゆっくりと繰り返す。視界の端に映った大和の姿は大きく、浮かべる城は優雅に進んでいる。武蔵同様に集中攻撃を受けている様子ではあったが、見事な操艦で巧みに避けていた。しかし物量で攻めてくる敵にいつまで避けきれるだろうか。
不安が過る。ましてや大和も武蔵も的としては大きく、武蔵に至っては射的の的になっているようなものだ。誰かが言った「死装束」の言葉が重く胸に圧し掛かる。
その時、軽く揺れたと思うと、足下の薬莢が転がり始めた。右舷に魚雷が命中したらしく、身体が持っていかれるような感覚も束の間、傾斜は瞬く間に修復された。
敵機は全てを撃ち尽くしたのか反転し、水平線へと消えていった。固唾を飲んで波状攻撃に備え空を見守ったが、その様子はなかった。
機銃員はこの時間で、銃身を冷却し、薬莢をオスタップの移し、海面へ放棄する。それと同時に使い果たした弾倉の予備を給弾室に取りに行き、担架で負傷者を運ぶ看護兵とで甲板はごった返している。
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