午前一時、ファミレス

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午前一時、ファミレス

 近年の夏は常軌を逸している。熱帯雨林が日本の夏より不快な気候なのであれば、俺は未来永劫そんなところへは行かない。  午前一時、Tシャツが身体にべったりと張りつく熱帯夜、ファミレス――。  一人暮らしでありながら、俺は帰宅恐怖症と言うべき状態に陥っていた。散らかり放題の部屋は日々の意欲を減退させ、汗もろもろをたっぷりと吸収した寝具は健やかな眠りを阻害する。暑い、冷房の効いた店内から出たくない。そしてなにより、家に帰って眠りにつけば、朝を迎えてしまう。  もう日付は変わっているが、起きている限り自分の中の日付は変わらない。俺は「明日」を迎えることを拒む。ここ数年、「今日」に納得できていない。「明日」に挽回する見込みもほとんどない。無理だとわかりつつ、「今日」という日にほんの僅かでも爪痕を残したい、前に進んだという実感がほしい。そう思って、くだらない落書きで埋め尽くされたキャンパスノートに向かっている。  三十歳、お笑い芸人。     
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