午前一時、ファミレス

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 この間、初めて出演したバラエティ番組が深夜に地方局で放送された。ゴム紐のついた洗濯ばさみで俺と相方の乳輪を挟み、両者で引っ張り合う乳輪相撲(相撲か?)という下品で時代錯誤な罰ゲームで笑いをとろうと試みるも、批判も賞賛もなく次の仕事に繋がる見込みは皆無である。  俺はいつまで、こんな生活を続けるのか。  長谷川(はせがわ)由利(ゆり)さんというウェイターがいる。彼女のことは今いるファミレスで一年前から見かけるようになった。年の頃は二十代中盤と思われる。容姿端麗で、透明感のある大きな瞳に美しく艶めくショートの黒髪は俺のストライクゾーン外角低めにズバッと決まった。  彼女に出会った日から今日に至るまで、俺は彼女の出勤日を記録し続けている。地道なデータ収集の結果、出勤する曜日に偏りはないものの、一~二週間ほど丸々休むことがあり、勤務時間は決まって九時から閉店までということが明らかになった。  無論、俺がとても気持ち悪いことをしているという自覚はある。だが、彼女の迷惑にならない限りにおいて、俺の行いはストーキングには当らない……はずだ。  彼女に嫌悪感を抱かれ、この店を出禁にでもなったら俺はどうなってしまうだろうか。彼女の澄んだ声を聞けなくなったら、彼女の朗らかな笑顔に接することができなくなったら、生きていて楽しいことなどなに一つなくなってしまう。     
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